現在、日本では多くの歯科医院でインプラント治療が行われていますが、そのほとんどが最近10年以内に患者様のお口へ埋め込まれたもので、10年以上経過したインプラントは全体の約30%にすぎません。
言い換えれば、短期的な治療結果がほとんどです。場合によっては、安易なインプラント治療により、短期的には問題が出なくても、長期的に良好な結果を得られない失敗症例が日本中で続出してくる可能性を否定できません。
私のインプラント治療に対する最も基本的な考えは、患者様のお口の中で長期的に良好な状態を維持してほしいということです。
そのためには、どのような考えに基づき治療をすべきか、10年以上にわたって研修、経験を積んで行く中で、確信に至ったことがあります。
私は、長期的に予後の良いインプラント治療に必要な要素は、
- 良好な噛み合わせ
- 良好な顎関節の状態
- 十分な骨に支持されたインプラント
- インプラント周囲の健康な歯肉
- 力学的に調和のとれた必要最小限のインプラントの配置
と考えています。
一般的には、インプラント治療は外科的な側面が前面にでてきますが、それだけではありません。
私は、インプラント治療を行うということは、上記に挙げたように、総合的歯科診療を行うことだと考えています。
言い換えれば、口腔内の治療をする際に、問題点を総合的に分析・診断・治療を行い、長期的に経過が良好な歯科治療を提供するということです。
以下に、それについて説明いたします。
歯が欠損する原因を考えると、
- 虫歯になりやすい唾液の性状や生活習慣
- 成人性歯周病や家族的の遺伝的・後天的要因による歯周病
- 噛み合わせの問題によって、歯が重なっていたり、永久歯が生えてこなかったりして口腔内清掃が難しい場合
- 過去の歯科治療がうまくいかなかった
- 審美的な問題と機能的な問題が関連していた場合
などといった場合、結果的に、歯を失ってしまうことが多いようです。
また、同様に大切なことは、歯の欠損を数ヶ月〜数年間放置したことによって、さらに噛み合わせが悪くなってしまうことも多いです。
例えば歯を1本失ってしまった時に、確かに、単純に1本のインプラント治療だけを行えば十分な場合もあります。
ですが、実際には、治療前に時間をかけて精密検査をすると
- 周囲の歯の虫歯の治療を優先させるべき場合
- 歯周病が進行していて、その治療をまず行ってからインプラント治療をすべき場合
- 矯正治療などで、噛み合わせを治さないとインプラントが出来ない場合
- 顎の関節の状態が、本人も気がつかないうちに悪くなってしまい、顎関節症の治療を同時に行わなければならない場合
- インプラント治療の前に、新しく総義歯を作って、改めて歯の位置を検討しなければならない場合
- 上顎洞炎など耳鼻科的な問題を先に治療すべき場合
- 歯ぎしりや食いしばりが強く多くの歯が摩耗ですり減っていたり、欠けていたりして、その対策も同時に必要な場合
- 歯や歯肉の形態、大きさに問題があり、それによって機能、審美に問題を生じているためにその治療も同時に行った方がいい場合
- 高血圧、糖尿病など全身的疾患が見つかり、インプラントに先立って、それらの治療を行うべき場合
- インプラントより良い治療方法がある場合
- インプラントが不可能な場合
など、様々なことがわかります。
つ まり、欠損部のことしか考えずに、インプラント治療だけを行ってしまっても、口腔内の本質的な問題が解決しないので、しばらくすると、周囲の歯が痛くなっ たり、被せたセラミッククラウンが外れてしまうなどの問題を起こし、他の部分の治療や、同じ部分の再治療を余儀なくされることも多いのです。
最悪な場合、インプラントの失敗、口腔内からの脱離、もしくは除去に繋がることもあり、いつまでたっても再治療を繰り返すサイクルから抜け出せない事になるのです。